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身体を抱き起こしてやれば、きちんと自力で座ることができる。
何か一言でも発してくれたり、身動きをしてくれればもっと安心できるのだが。
そっと点滴の針を抜いて、痕の残らぬように魔法で癒す。
いつもの明るい表情は無く、瞳にも光は差さず。
「さてスカッシュ……着替えような」
こちらの声が届いているかも分からない。
普段は青で隠されている金の瞳に同じ金が映りこむ。
けれどそれは何も見てはおらず、そもそも見えているのかも分からない。
ゆっくりと服を脱がせて、優しくタオルで全身を拭ってやる。
魔法で済ませれば確かに早いだろう。
だが今は、この子に自分が傍にいると感じて欲しくて。
あまり厚いものは着せない方が良いだろうと、白いワンピースを着せてやる。
袖に腕を通して、整えて。
次に櫛を髪に入れて梳かしてゆく。
昔から変わらない、ウェーブの掛かった癖っ毛。
母上は自分と同じストレートだったが、確かそう祖母上がこんな髪をお持ちであったか。
「……幼い頃は羨ましいとも思ったが、これは確かに手入れが大変そうだな」
そういえば昔はこんな髪型が好きだったかと、緩く束ねて前へと流す。
そして桃色の花飾りを差して、普段から付けているピアスを右耳につけて。
「――ここまで印象は変わるものか」
普段の活発さが見受けられないせいも当然あるだろうが、
それでも随分と印象が違う。
よく言えば、深窓の病弱な令嬢。
けれど今の妹はまるで。
「頼む、こっちを見てくれ……アイシェ」
どことも分からない場所に向けられた視線を遮るように顔を覗き込む。
どこまでも暗く、無を漂うその様は。
……まるで、美しく可愛らしい人形のよう。
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プロフィール
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ティス
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29
性別:
女性
誕生日:
1994/05/10