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英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。

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【視点:ヤンディ】

ケルトが大怪我をしたあの日以降、Dの存在がつかめなくなった。
死神も恐ろしいほどに静かだ。
……Dが居なければ、この身体は悲鳴を上げる。
けれどそれでも、戦わなくてはならない。

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+ + + + + + + + + +


「……」

Dを呼び出すための略式魔法陣を描いても、それは何の反応も示さない。
紫の魔力が扱えなくなったことを考えると、どうやら契約関係が切れてしまったらしい。
代わりに黒の魔力が扱いやすくなっているところを見ると、死神の奴が手を貸してくれているのは間違いない。
だが呼び掛けに一切応じないと言うのは一体何だと言うのか。

「……あいつの気紛れ、って言われたら納得するしかないけど、Dの奴どうしたんだ……」

もう一度略式魔法陣に魔力を流し込めば、どこかで見覚えのある黒薔薇の花びらが舞う。
その中から皇国風の着物を着崩した女が、うっすらと透けた状態で現れた。
口許を扇子で隠し、聞き覚えのある声を響かせる。

「あの子は力を使いすぎて消滅寸前よん。紫竜様が閉じ込めちゃったのぉ。
 それから我が王だけれど、普通は人間ごときに力なんて貸さないわぁ。
 他のみんながあんまり無関心だからあちきが来てあげたの、感謝なさいな」
「……お前、誰だっけ」
「いやん……忘れられちゃってるのん?」

帰ろうかしらぁ、だなんて拗ねた様子を見せる女。
恐らく、きっと、多分、冥界の神の1柱なのだろうが。
えーっと、見たことがあるような無いような。

「……あ」
「思い出したぁ?」
「宵じゃない方だ」
「その思い出し方もどうかと思うのだわ……間違ってないけどねん」

確か、呼び名は魅惑。情事を取り仕切る、色欲の神だ。
だがそんなことよりも気になることをこいつは言った。

「消滅寸前、って?」
「そのまんまよぅ、あの子ってばルール無視して干渉し過ぎなのだわ。
 むしろあんな契約がつい最近まで有効だったのが不思議なくらい。
 あんまりに悪い子だから紫竜様が現に出るのを禁じちゃったのよん」
「あんな契約って、正当なものだっただろう!?」

随分と昔の事にはなるが、自分がDを召喚し使役してきたのだ。
きちんと対価は払った、なんの問題があると言うのか。

「……それが人間の愚かさよねぇ。
 あなたとあの子が契約したのは、あなたが家族の元に帰りたかったからでしょう?
 我が王から無事逃げ仰せた時点で契約達成よん、それ以降はずっとあの子が自分で対価を払い続けてあなたを助けてたの。
 ……召喚したあと、あなたは魔力の供給をきちんとしていて?」
「……っ」

していない。
というか、する必要があったなんて言うのも初耳だ。
そんなこと、一言も……

「仮にも人ならざるものが現に干渉するなら対価が必要よん。
 我が王は常に少しずつ魔力を吸っていらしてるけれど、あの子はずっとタダ働きなのだわ。
 流石のあちきでも同情しちゃうのねん、倒れるまで主を支える心は立派だけどぉ」
「……」
「ちなみにあなたが激しく動くたびに激痛が走るのは、あの子って支えを無くしたからよん。
 そこでなんだけど……って聞いてるー?」

自分は、あいつに無理をさせていたのだろうか。
契約を盾にあいつと言う存在を削っていたのだろうか。
度々頼ってしまっていたが、確かにこれが死神であればその度に対価を要求されていただろう。
……あいつは、いつも助けてくれていた。

「おーい……もう、はいこっち見る!」
「え、あ……」
「だからあちきが代わりに助けてあげるわん。
 もちろん対価は貰うし、魂が不安定なのを支えるなんて芸当はできないけどねん。
 でも我が王は別のお仕事でお忙しいからあちきが仲介役になってあげる。
 嫌なら嫌でも良いのよん? ただし魔法は一切使えなくなるけどねん」
「……対価は?」
「あちきがなんの神かは知ってるわよねん?」

知ってはいる。
知ってはいるがつまり夜の相手をしろとかそういう……

「……」
「冗談よぅ、怖い顔しちゃいやん。
 毎日三回、現の食べ物を捧げなさいな。美味しそうで良いわよねぇ」
「え、それだけ?」
「え、対価なんてそんなものでしょう?」

思わず拍子抜けした返答をすれば、同じくきょとんとした顔が見えた。
たったそれだけで良いならばなんの問題もない。
むしろそれで働いてくれるのかと疑いたくなるくらいだ。

「だってぇ……ご飯や洋服、アクセサリーとかで働くものでしょう?」
「死神は平気で魂持ってこうとするぞ」
「うーん、やっぱり序列高いお方は分からないわぁ……普通、女の長い髪とかで満足しない?」
「知らないよそんなの」

頭痛がしてきた。神によってこうも求めるものが違うのだろうか。
まぁでも、本当にそれだけで良いのならば。

「契約陣は?」
「うーん、欲しい?」

作るの面倒なのよねぇ等と言う様子に頭痛が酷くなる。
無いと簡単に破棄できちゃうだろとは流石に言えず、額を押さえた。

「やぁん呆れられちゃった。陣作るの大変なのよぅ。
 だから……あちきの手に口付けなさいな、本当なら足にと言いたいけれどそこまでしたら我が王に怒られちゃうわん」

しなやかな手が差し出される。それにしてもなんと平和的な契約だろうか。
今戦えなくなることは避けなければいけない。そう考えれば受けない理由もなく。

「あ、ちゃんと跪くのよん」
「はいはい……」

静かにそれを行えば、黒い花吹雪が周囲を覆う。
そして確かな力の流れを身の内に感じた。

「――ふふん、聖の一族と契りを交わすのは何時振りかしらぁ。
 でぃりーちゃんは御先祖の血が強いのねぇ、普通の人間はこれで死んじゃうのよぅ」
「え、何それ」
「我が王に耐えられたのもきっとその血のおかげね、神降ろしの末裔さん?」

くつくつと笑う顔が花弁の嵐に隠れ、次の瞬間にはその姿はなかった。
一体なんだと言うのか。やっぱり向こうの都合は全く見えないし解らない。

「……ま、いいか」

大きく息を吸って拠点へと足を向ける。
なんにせよ今まで通り戦えるのならそれでいい。
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