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英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。

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【視点:スカッシュ】

しんでしまう、だれが、あのひとが
いたい、くるしい、あかい、くろい……

そんなわたしにささやく、しにがみのさそい

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ああ、ここはどこだっけ。
なんで私は走ってるんだっけ。

もう夜街に変わった高い建物の合間を縫って、あてもなく走り続ける。

こわい、こわい、なにが。
無機質な、たくさんの魔導機械に繋がれたあの人。
その命が潰えそうだという事実が酷く恐ろしい。

あの人も死んでしまうのだろうか。
人間なんてほんの些細なことで死んでしまう。
お母様のように、お父様のように……

「――っ、はぁ、はぁ……」

ベンチに座って足を抱える。
また何もできない、死から逃げて、いつもそう。

「あれは放れば死ぬのぅ……」
「……っ!?」

ふと顔を上げれば隣に黒いローブの男が背凭れに腰かけていた。
禍々しい気は感じない、けれど妙だ。
なんでこいつがここにいる?

「……わたしも、つれてくの?」
「いいや、火炎の舞姫。お前は先100と20は生きような。今宵はひとつ、取引を申し込みに来た」
「……いやよ、あなたとのとりひきは、しょうきじゃない」

一体この存在に、幾度あの人は葬られかけただろう。
そんな神と契りを交わすなんて、正気ではない。

「そう言うな……話だけでも聞け。
 まず、死にかけておるお前の兄だが間違いなく次の朝日は見られまいな。
 圧倒的に血が足りぬ、なんとか薬とお前の姉の魔法で持ちこたえておるようじゃが
 それすらも傷付きすぎた身体には堪えるじゃろう」

わかってる、そんなことは。
あの姉さんが必死になってほとんど効果のない魔法を、それでもかけ続けていた。
いつもならもっと的確に治療をするはずなのに。

「……そこでじゃ、火炎の舞姫よ。わしがあの男の全ての傷を癒そうではないか」
「え……!?」

思わず、死神の顔を見た。
その表情はフードに隠れうかがい知れない。

「……何を、取ろうって言うの?」
「話が早いのう……他言無用に加え、対価はお前が最も不要とするものじゃ。これほど迄に良い条件はあるまい?」
「それは、なに」

くつくつと笑う死神に答える素振りはない。
わたしにとって、もっともいらないもの?
それは一体何だと言うのか。

「お前が最もないがしろにし、己の意識も留めず、そして要らぬとしてきたものじゃ……
 何、急に奪うことはせんよ。治癒が進んだ分だけ徐々にもらい受ける。
 ……躊躇する理由がどこにあるのかのぅ、思い至れないほどに不要なものじゃろう?」
「……」

わたしにとって一番不要な物と、あの人の命。
確かに天秤にかけることすら間違っているのかもしれない。

「――分かったわ……その話、乗った」
「良き判断じゃ。利きの手を出せ、簡易ではあるが契約する」

言われるがままに右手を差し出せば、死神がその爪で薄く甲に1本の線を刻んだ。
痛みに思わず眉をしかめたが、ぷくりと浮かんだ赤い線はすぐにふさがり跡形もなくなる。

「契約完了じゃ……責任をもってあの者の傷を癒そう」
「いま、すぐよ」
「すぐに完治は厳しかろうて、1年……確か中の大戦があったな?
 その辺りまでは猶予を見よ、急激な治療も身体には良くないでの」

そう言い残して姿を闇に溶かし消えたのを見送って、ぼうっと膝を抱える。
これで良かったのだきっと、これできっとあの人は。

ああでも、戻らないといけないと思っているのに赤がちらついて身体が動かない。
鮮やかに浮かぶ死の舞台。
どこまでも、どこまでも死の匂いが追ってくる。
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