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英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。

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【視点:ヤンディ】

そうはさせるものか。
契約の下、その魂は必ず救う。
――ボクだけでは無理だ、彼を助けられるのは君だけ。

※天狐さん(1x90)のテンコさんをお借りしております。

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+ + + + + + + + + +

「……曲がり形にも神格持ちの聖霊か。自身ごと身体を封印しよるとは」
「――王?」
「お前も辛かろう、聖霊にすら満たぬ存在でいるには。直に器を用意してやるでな」
「……はい」


王の後ろについて歩けば、闇に属する神々が頭を下げ道を開ける。
自分如きが王と共に歩くなど実に恐れ多い。
王は神格を下さると言うが、あまりに不安定なこの身に勤まるとは到底思えない。
この上ないほど可愛がって頂いているが、そんな資格が自分にあるのだろうか。


「――あの」
「どうした」


振り返らずに先を歩く王に、どうしても聞きたかった。
何度聞いたかは分からないが、何度答えを頂いてもそれでも不安で。


「なんで、おいらなんて。傍に置くなら、
 魅惑様や美姫様や……お仕事をなさるなら宵様の方が」
「何度も言っておろう、わしはお前が良いのじゃと」
「です、が。おいら、仕事もできないし、不安定すぎてお手間を掛けてしまうだけで――」
「良いのじゃ。仕事なぞ捨て置け。お前は目を放した隙に消えてしまいそうでな」
「……ありがと、うございま、す」


聞くたびに胸の深くで生まれる靄は一体何なのだろう。
ずっと。こうして過ごして少しの時間が経ったが、ずっと何かが違うと叫んでいる。
そしてその叫びと共に、見えるあの眩しすぎる光は一体。

この事はずっと不思議でならないが、王にお聞きする気にはなれなかった。
何故だか、それを口にした途端全てが終わってしまうような気がして。

ぼうっとして歩いているうち、
いつの間にか立ち止まっていらっしゃった王にぶつかってしまう。
慌てて頭を下げ謝罪を述べるも、良いと一言だけ仰って顔を上げろと続けられた。
恐る恐る頭を上げれば、冥界の王に相応しい漆黒の視線に射抜かれ身動きが取れなくなる。


「……張り合いこそ無いが、こういうのも悪くは無いのう」
「……?」
「まぁよい、少し休め。わしはこれから仕事じゃ」
「――はい、お疲れの出ませんように」
「うむ、部屋から出るでないぞ」
「はい」


部屋の扉に手を掛けようとした途端、また声が響く。
名前を呼ばれた気がして慌てて辺りを見渡し王のお姿を探すが当然見つかるわけが無く。
……自分の名を知っているのは、王だけの筈だ。
王は、王の部屋以外で自分の名を呼ぶことは無い。

気のせいだと頭を振り、扉を開けようとした瞬間。
今度ははっきりと名を呼ぶ声が聞こえた。



――この声を、自分は知っている。だけど、誰?

     “俺は、覚えてるよ”



胸の奥底から響く、その声の主を探そうと意識を集中させる。
深く、深く。魂の奥深くまで探っても分からない。
どこまで探っても闇ばかり。



――君は、誰? どこにいるんだい?

     “俺はここに居てる。どこにも行かんから”



闇ばかりのそこに、ちいさな光を見つけ出す。
触れようと手を伸ばしかけて、迷う。
自分は闇の存在だ。不用意に光に触れれば、不安定な今の状態では掻き消えてしまう。


けれど、どうしようもなく恋しくて。
徐々に強い光になっていくそれが、とても大切に思えて。


覚悟を決めてそっと触れれば、闇たる自分には強烈すぎる光が存在そのものを焼く。
耐え難い痛みと同時に、黒く塗りつぶされていた全てが甦り始める。

悪魔の子と呼ばれ生きてきた暗黒の日々、出会った可愛らしい光。
本当の意味で始めて得た優しい宝。そして、宝と引き合わせた黄金の門。
塗りつぶされ失った本心、光を失った自分の魂。



――たすけて、こんなところにいたくはない。
   いっそ、いきていなくてもいい。あそこに、かえりたい。



小さく零せば、黒と白だけだった世界に黄金と灰が混じる。
そして、黄金と灰が全てを覆ったと思えば目の前に立つのは灰色の髪をもった青年。


「……よくもまぁあの状態から戻ってきたよ」
「……ここは、君の部屋かい?」
「いいや、マスターはもう神界には入れない。ここは空間の狭間だよ。
 ボクも殆ど力を使い果たしているから緊急でも空間を作ることは叶わなかった。
 けれど、黄金が力を貸してくれた。暫くここで休んでマスター。
 今のままじゃ闇が強すぎて肉体の方が拒否反応を起こしてしまう」
「……いま、身体はどうなっているんだい?」
「封印術を掛けて冥界の王の目から隠してる。
 ここも黄金が闇からの目隠しになってくれているから、
 マスターがここを出ない限りは見つからない」


彼は、自分が召喚した灰神、D。
死神に散々操られ、多大な迷惑を掛けただろうに穏やかな笑みを浮かべている。

けれど、自分に意識を向ければ未だ光は戻らず闇のまま。
眷属としての意識も残ってしまっている。
自分が深くに隠した彼のおかげで自分を取り戻すことはできたものの。


「……これ、戻れる?」
「ははっ、マスター。何のためにボクがいると?
 ……といっても、神界の力を借りられない以上魂を浄化することができない。
 負担にならないように身体を闇側に傾けようと思う」
「それで戻れたとして、死神に捕まらないかい」
「身体に戻ってしまえば強力な守護が、今度は今まで以上の力で守ってくれる。
 まぁ今まで通り付きまとわれはするだろうけど、今回みたいな干渉は無いと思う。
 ボクも全力でサポートするしね」
「うん。ありがとう。……なんか、すっごく疲れちゃって」


Dは小さく笑って指を鳴らすと簡素なベッドが現れる。
ゆっくりと横になれば、久々の暖かさに眠気が襲い来る。


「当然だよ、
 ボクがやるなら数週間は掛けるコントロールの解除を一瞬でやってのけたんだから」
「おいらの力じゃないけどね」
「知ってるよ。……おやすみマスター」
「……おやすみ」


眠気に誘われて落ちていく。
けれどそこは冷たい闇ではなく、暖かく優しい光。
闇に傾いてしまった自分を優しく照らしてくれている。


――ありがとう、テンコ。
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