英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。
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風と雪が窓を叩く。
聞こえてくる音がただただ恐ろしくて。
一体いくつの命がこの音の中に消えていったのだろうか。
あの日だけでなく、守りきれずに溢してしまった命は一体どれほどあるのだろう。
一際強い風が窓を叩く音にびくりと身体が跳ねる。
それを紛らそうと、手元にあった麦酒を飲み干す。
人は言う。風の音が恐ろしいなら窓の無い奥に部屋を構えれば良いと。
どうせ洞窟住まいなのだから、音の聞こえない奥にまで行ってしまえば良いと。
……それではダメだ。
洞窟内に反響するそれが一番怖い。
微かに聞こえるよりは、はっきりと聞こえていた方がずっとマシだ。
普段より強い酒の瓶を開ける。
それをコップに注ぎながら、部隊の現状を思い浮かべた。
ヤンディの中の、Dは1日の大半を自室で過ごす。
昼間は部隊長としての仕事や数も減ってきた遠征の計画をきっちりとこなし、
時間が空けばただひたすら魔法陣の上で胡座をかいてじっと動かない。
基本的にあいつが動くのは遠征と食事と睡眠くらいなものだ。
姫は魔力が戻ったようには感じられないものの、元気に過ごしている。
ただ不安なのは、魔力が戻っていないのに今まで通り魔法を使っていることか。
きっとDの補助とやらなんだろうが、自分は未だにあいつを信用することができないでいる。
……態度に出すことは無いが、真名を握られてしまっているのだ。警戒しない方がおかしい。
スカッシュちゃんは、明らかに拠点にいる時間が短くなった。
腹の虫の居所が悪く、彼女にしては珍しいことにすぐ怒り出す。
Dに対しては特に顕著だ。人の好き嫌いを言わない彼女が大嫌いだと言い放つ位には。
それに元から酒飲みとはいえ、最近は酒場に入り浸りらしい。
なんでも、舞台の出演料代わりに酒を貰っているとか。
……やけ酒であろう事は簡単に予想がつく。
俺は俺で、この通り吹雪にやられているのだから格好がつかない。
拠点に漂う険悪な空気も相まって、普段よりも部屋が荒れているのが自分でもわかる。
まだ理性的でいられているのが救いだろうかと、
先ほど叩き割ってしまった酒瓶を眺めながら思う。
「……くそっ」
立ち上がりながら作った拳を思いっきり壁に叩き付ける。
「くそ、くそっくそ!!」
――痛い。
けれど、それでいい。
今、家族が受けている痛みを思えばこれくらいなんだ。
壁を殴る度、床に赤が落ちる。
「――んで、なんでいつも痛い目に遭うのがあいつらなんだよ……!!」
そう、いつだって苦難に晒されるのは俺の家族で俺じゃない。
元の世界に居た頃は、スカッシュちゃんが真っ先に単独で偵察。
重要人物の確保や排除は姫がやっぱり単独。
いざ乗り込むとなった時、多くの家族が命の危険をおかしている時に俺は一体どこにいた?
……ブリアティルトにいる今も大して変わっちゃいない。
たった3人の家族すら守れていない。
もう一度、今度は額を打とうとした途端に親友の制止の声が頭を過って思い止まる。
それでも溢れる自分に対する怒りに、一度だけ拳を叩きつけてその場で膝を抱えた。
じっと気を落ち着かせようと思っても、窓を叩く吹雪が許してくれない。
怒りと恐怖と、苦痛と悲しみが混ざって渦巻く。
自分の身体を強く抱き締めても、それが弱まる事はなく。
「だれ、か――」
たすけて。
声にならないSOSは、当然誰にも届きはしない。
……今日は、誰も来ない。そんなこと解っているのに。
乱れる精神を無理やり押さえ、4つの魔法陣を自分を囲むように描き出す。
こんな状態でどれだけ効果があるかはわからないが、
とにかく自分が使える限り強力な魔法を。
「――“意識切断記憶。意思遮断記憶。時限意思回復記憶。時限意識接続記憶”」
催眠魔法よりも遥かに強力な魔法を2つ重ねる。
自分自身に掛けるなんて実にバカげた話ではあるが、
こうでもしないとこの先何をしでかすかわからない。
解かない限り何があろうと目覚める事ができない魔法だが、
仮に失敗しても解ける魔法使いがいるのだ、大して問題は無いだろう。
成功さえすれば明日の朝には解けるようにセットした。
また、自分を傷つけてしまわないうちに。
誰かを傷つけてしまわないうちに。
「“覚めぬ眠りの呪いを”」
一瞬のうちに全ての意識と意思が消失した。
落ちる先は
夢のない深すぎる眠り。
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誕生日:
1994/05/10