英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。
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意識が、沈んでいく。
遠くなのか近くなのかも分からない獣の唸り声が、暗いダンジョンに響き渡った。
このまま、奴等の餌食になってしまうのだろうかと考えた途端、
麻痺していた感情が蘇ってくる。
――いやだ、死にたく、ない。
「えー? この時期に探検行くの?」
「この時期だから、さ。大陸の混乱もある程度収まったし別にいいだろぅ?」
「全く、どんなに掛かっても1週間で帰ってきてよね!」
「順調に行けば、3日後には帰ってくるよ」
文句を溢すおちびを軽くあしらい、荷物を確認する。
食料も水も、1週間分は確保した。
まぁ、少し遠出するといっても帝国内。どうとでもなるだろう。
「じゃ、行ってくるね」
「はいはい、行ってらっしゃい」
……それが、20日前だったはずだ。
迂闊にも隠されていたテレポーターを起動させてしまい、
飛ばされた先は恐らくダンジョンと呼ばれる場所の最下層。
食料を切り詰め、トラップや獣達を避け、それでも見つけた階段は僅かに4つ。
まだ、半分ある。
食料は既に尽きた、水も後数口程度。
獣を狩れる程の体力はない上に、辺りは強力な罠ばかり。
そもそも、もう動けるような状態ではなく壁に身体を預けていた。
全身、深層で食らってしまった罠や獣達の牙による傷だらけ。
だというのにこの身体はポーションを受け入れようとはしない。
死人をも甦らせるという秘宝もまた、
たった一度だけ僅かな傷を癒すにとどめてそれ以降は効きはしなかった。
ただただ“死神の思い通り”に血が、命が流れていく。
救援など望めないのはわかっている。
この長い時間さ迷っていたのにも関わらず、どこの部隊ともすれ違うことはなかった。
そもそも、ここがヴァルトリエである確証もない。
けれど、助けに来て欲しいと願ってしまう。
誰かが、捜してくれていると信じたいと思ってしまう。
刻々と迫り来る死の恐怖か、全身に走る激痛のせいなのか。
それとも、絶望なのか。
涙が溢れ出す。
既に霞んでいた視界が、更に悪くなる。
聞こえるのは、異様に早く浅い自分の呼吸と徐々に力を無くしていく鼓動、
そして死を待つ獣達の唸り声。
――いやだ、嫌、だ。まだ、死にたくない。
まだやりたいことは沢山ある。
かえりたいのに、あいたいのに。
腰に伸ばした手の先に、そこにあったはずのものが無い。
帽子を深く被りなおし自己嫌悪に陥る。
ああ、彼女との絆を。
彼女の守りを手放してしまったのは、他でもない自分だと。
死神の笑い声が喧しい。実に愉しそうで、不快。
そして、やっと合点が行った。
あいつがああまでしてしつこかったのは、この状況を生み出すためだったのだと。
彼女が自分の為に生み出した多くの守りを、自分から奪い去る口実だったのだと。
――ならば尚更、喰われて堪るか。
掠れて出ない声と、尽きた魔力を絞り出す。
「――我が声に、応えよ。
我が魂に、最も近く……冥界に、仇なす存在、よ」
白い魔方陣が、自分を中心に展開される。
それは、今まで行使したものの中でも一番複雑な魔法で。
「我が、願いを……聞き入れられよ。
終わり、なき……地獄の闇から、我が魂を、すく、い……たまえ」
どうせ死ぬのなら、のこせるものを遺したい。
永遠に死神の掌で弄ばれるのだけは、避けたい。
どうせ、尽きるしかない命ならくれてやる。
足掻いてやろう、死神の手をすり抜けてやる。
「ねが、わくは……」
これは、禁忌の魔法。
原罪者が考案し女神が禁じたにも関わらず、多くの魔法使いがすがり命を落としていった。
「冥界の、王への……反抗を」
最後の、切り札。
神や聖霊を呼び出す、召喚魔法。
対価は、人間では到底払いきれぬ膨大な“魔力(生命)”
呼び出す対象を指定しなかった今回は、“自分に最も近い”存在が呼ばれる筈だ。
魔方陣の光が強くなると共に、意識が遠退く。
身体に残る、全てを魔法に持っていかれていく。
……それで、いい。
後は、イカサマのきかない大博打。
死神に勝てるか、負けるかは、わからない。
ああ、けれどもし許されるのなら、もう一度。
「――きみ、たち、に……あいた……かっ、た」
頭に浮かんだのは、3人の家族と陽気な女の子と、唯一の親友。
暖かな記憶が遠退いて、全てが消えた。
白の視界が黒になる直前に映り込んだのは、灰の髪。
だがしかし何を思う間もなく、全てを手放した。
神界から呼び出された先は、異界の洞窟らしき場所。
そして、自分を呼び出した張本人は息絶えようとしている。
……あぁ、これが自分の罪。
“こんな魔法を自分が作り出したがために”多くの神々がこの光景を見てきた。
けれど、喜んでいい。
この峠さえ越えれば、君を神の賭事から守ってあげられるかもしれない。
……少なくとも、“この世界にいる間”は。
「――良かった、君が誰かを指定して召喚魔法を使わなくて」
傷付き、意識の無くなった身体にそっと触れる。
瞬く間に傷は癒え、身体に命が戻った。
ただ、問題は。
「……魂が、殆ど残ってない」
冥界の王に持っていかれてしまったのだろう。
強い意志が魂の僅かに一部分にしがみついて残ってはいるが、
このままではいずれ全てを持っていかれる。
そうなれば、自分も冥界に引きずり込まれるだろう。
彼の魂の“一部”にしか過ぎない自分もまた、運命を共にする。
「……けど、ボクと君が同じ存在だからこそ、助けられるかもしれない」
今こそ、還るとき。
不自然に切り取られてしまった、あるべき場所に。
そっと跪いて、力無い手を取り額を近づける。
「――神後の時からの、鎖を砕いてくれたのは君だ。
召喚してくれてありがとう、やっと表だって君を助けられる。
ボクが君の魂を身体に繋ぎ止めて、一度冥界から神界に引っ張りあげよう。
そして、完全な状態で戻ってくるといい。
それまで、君の身体はボクが借り受けて生き永らえさせよう。
……大丈夫、ボクは君。身体だって拒否はしない。
それに、君の引く血はボク達聖霊たる存在には心地良いからね」
静かに目を閉じて、彼の身体に入り込む。
そして目を開けてゆっくりと立ち上がった。
自分のものとは違う、藍白の髪が揺れる。
……とは言っても、自分の物より青みが掛かっているだけで大して代わり映えしないが。
「んーっと、魔法がどこまで使えるかだな」
当然、その声も彼の物。
違和感が拭いきれないが、とりあえずここから出るべきだろう。
彼が拠点としている、あの場所に帰ろう。
「――飛べ」
灰の光の中、視界の藍白が深すぎる青に染まるのを見て苦笑を浮かべる。
……ああ、これは魔力の使い方を考えなければ、と。
光が止めば、彼が帰りたくて仕方のなかった場所の前。
身体の調子を改めて確かめ、掌を握り込む。
「ふぅん、魔力自体はボク自身のが使えるわけだ」
人間の身体は久し振りだ。
無茶だけはしないようにと決意し、歩みを進める。
――さぁて、彼の家族になんて説明をしようか。
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誕生日:
1994/05/10