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英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。

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【視点:クムン】

昔々。
陸を夢見た、愚かな人魚の話。

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陸に憧れ人間に恋をした愚かな人魚は、
愛する王子に短剣を振り降ろす事ができずに泡となったらしい。
ならば、あの時。
自分はどうするべきだったのだろうか。

光に憧れバカな貴族に恋をした自分は、どうすればよかったのだろうか。
時は、遥か昔。自分がまだ愚かな小娘であった14の頃。
あの頃の思い出は、今も尚色褪せる事はない。
――始まりから終わりまで、1つも。



始まりは、些細な事だった。
たまたま通り掛かった舞踏会場から彼が現れた。
たまたま声を掛けられまた会う約束をしてしまった。
ああ、当時の自分はなんて愚かだったのであろう。
あの時、何がなんでも断っていればあの結末を迎える事などなかったというのに。

やがて、男が没落の貴族である事を知る。
魔法は使えなくとも、擁護したために多くのものを奪われたとも知る。
自分は彼の家を知らなかった。
皇族と言えど、国政の端すら触れなかった自分が
末端の貴族の名まで知っているわけがなかった。

いつしか、恋に落ちていた。
恋多き年頃の娘が、初めて胸の高鳴りを知った。
……それと、ほぼ同時期。

「お姉ちゃん、あの人止めた方がいいよ。ボスが、危ないって言ってる」

当時は、何を言っているのかとその忠告を聞こうとはしなかった。
何が危ないのか、聞こうともしなかった。
恋は盲目、とはよく言ったものだ。

そして、聞いてしまった。
彼の家の使用人達が話していることを。

――彼は、どこからか自分が皇族であると嗅ぎ付け、帝国に売ろうとしていると。

涙が止まらなかった。
信じていたのに、そういう人だったと言うことに。
彼を信じた自分が愚かでした。
偽りの優しさに甘えた自分が愚かでした。



満月の光が雪に反射し、とても美しい冬の闇に水竜が舞う。
背に跨がるのは、1人の暗殺者。
その手には、その身体に似合わぬ大槍。
その目には、滅多に見せることのない大粒の涙。

陸を夢見た愚かな人魚は、城にいた全ての命に死呪歌を捧ぐ。
一番豪華な部屋で、眠る王子に涙を流しながら刃を突き立てた。
何度も、何度も。

人を殺めたのは何も初めてではない。
けれど、これ程まで辛い仕事はなかった。
結局、血に塗れたその部屋で一晩を過ごしたのだった。

人魚が泡と消えることはなかった。
ただ、代わりに魔女は心を刃の対価に持っていったらしい。
やがて、闇の世界に人魚の名前が轟く事となる。
――凍てつきの人魚姫と。

「……そういえば、いつのまにか呼ばれなくなったな」
「何が?」
「凍てつきの人魚姫」
「闇の女王とか、水竜姫の方がぴったりだからよ」
「そうか?」
「そうよ」

あれ以来恋はしないと、伝えないと決めた。
いずれ、皇位を奪還するまでは。
そもそも、皇族の血を引く以上相手を選ぶ自由などありはしないのだから……
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