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英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。

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【視点:ケルト】

遠い昔。
ケルトが父を失い、吹雪を嫌い、多くの命を背負うことになったきっかけ。

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雪がちらつくなか、ぼんやりとこれは吹雪になるなと考えていた。


―― 何か、言い残すことはあるか?

―― 魔法使いよ諦めるな! 這いつくばってでも生き延びろ!!
   長い暗黒の日となるだろう。それでも生きろ、光が差し込むその日まで!
   我が名はライゼン、宵闇の王、女神への誓いを守護する者。
   兄弟よ忘れるな、魔法と言う誇りを!
   頼るがいい、私はそこにいないが盗賊団『女神の誓』は全ての魔法使いを受け入れよう!!


沸き上がった歓声が、悲鳴に変わっていく。
鍛え上げられた身体に無数の刃が突き刺された。
巨漢たる男は落命することなく、叫ぶ。帝王から逃げろ、そして生き延びろと。
風が強まり、視界が白に染まっていく。

ああ、この時自身に振り下ろされた剣に気がついていたなら。
そもそもミナトの忠告を聞き入れて飛び出していなければ。
あの人の、この姿は見なくて済んだのかもしれない。

まだ幼い自分に降る白に映える紅い飛沫。
厳重な拘束を引きちぎり、その身体を盾とした男の視線はとても優しいもので。
男は言った。お前は生きろと。

途端に抱え上げられる自分。
それをしたのは目の前の男ではなく、彼の右腕と呼ばれる存在。
更に濃くなった吹雪の中、攻撃の雨を潜り抜けて宵闇の王からあっという間に離れて行く。


―― 頼んだぞミナト、俺の息子達を!!

―― 親父!!! バカミナト、親父も助けろよ! 戻れよ!!

―― 坊っちゃん、耐えてくれ。旦那はもう無理だ!

この時ほど自分の体型を恨んだことは無かった。
もうすぐ16だというのに、時に10とも見られてしまうこの身体が恨めしい。
自分にもっと力が有ったならばと何度思っただろう。
自分に親父のような貫禄が有ったならばと何度思っただろう。

遠くで、憧れの存在が崩れ落ちるのが見えた。
喉が潰れるかと思うくらいにひたすらに叫ぶ。身体に入り込む冷気が、声までを凍らせる。

涙で歪んだ視界の先で、親父を手に掛けた連中が針と矢の雨に倒れたのを見た。
物陰には見慣れた藍白。
何も無いような場所で短剣を振るう度、
城の兵士に"だけ"針が降り、矢が刺さて確実に魔法使いが逃げる道を産み出していく。


―― ミナト、ヤンディは助けねぇのかよ、まだあそこに居んぞ!!

―― 悪いが坊っちゃん、もう戻ってられねぇ!
   ヤン坊ならきっと大丈夫だ、昔から逃げ足は速いだろ?

もう一度、強くなっていく吹雪に目を凝らす。
いつの間にか物陰から飛び出していたのか、駆けるヤンディに複数の兵士が迫る。

そして――



「っ!!」

異様な動悸と共に目が覚める。
見慣れた自室を見渡して、大きく溜め息を吐く。

「……たっく、吹雪でもねぇのにこりゃないぜ」

夢の続きを思い浮かべて緩く首を振る。
何度も見た夢だが、何度見ても悪夢には変わり無い。

あの時、ヤンディまで失ってしまったと本気で思ったものだ。
この点は、あの死神に感謝しなければならないだろう。
普通、背から胸を貫かれれば誰だって死ぬ。
あの日の夜、凍えきってでも帰ってきてくれていなければ俺は完全に気が狂っていた筈だ。
大怪我を負えども、死神が死を許さない。それがどれだけ辛いことか想像はできないが。

「……談話室行くか」

誰に言うわけでもなく、ゆるりと立ち上がる。
無性にあいつらの顔が見たくなった。


俺は、親父のように生きていられてるだろうか。
宵闇の王の子として、赤闇の王として、胸を張れる生き様だろうか。

今はただ、守れるだけのものを守りたい。
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