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英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。

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【メイン:全員】

2度目の巻き戻り。
超える手段は確かにある。
――けれど、当然無事に終わるわけも無く。

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「姉さーん」
「どうした」
「歪んでる」
「何がだ?」
「この空間」
「……またか」
「またなのよ」

テーブルに突っ伏すスカッシュと、その向かいで紅茶を飲むクムン。
顔だけを上げて、スカッシュが言う。

「多分また巻き戻るわよ」
「……何、またなんとかできるであろう」
「じゃ、姉さんは時の保護であたしは空間に割り込む魔法ね」
「……しばらく、外出は控えるか」
「うん、ボスにも言っておかないと」

戦争は終わりに向かっている。
けれどきっと、また始まるだろう。
以前そうだったように、周りの環境と自分達の身体まで。
今の彼女達が力を合わせたところで、持ち越せるのはその記憶くらいなものだろう。

それだけ、あの現象は強かった。
"干渉"の影響はとても大きい。
世界トップクラスの魔法を扱っていた2人の力は
日常に影響無いといえ、今や半分にも満たない。
日常的に空間を超え、世界を超えていたスカッシュは一瞬空間の狭間に飛び込むだけで限界。
クムンはクムンで、かつて操っていた美しい水龍を生み出すことはできなくなった。

「……波は近いうちにくるのか?」
「この感じだと、最大波は明日の夕方くらいかな」
「急だな……」
「そりゃ急よー。あたしだって感知しにくくなってるんだもん、分からないわ」
「準備だけしておくか……気休めにしかならぬだろうが、
 この拠点全体に保護魔法を掛けておきたい。
 およそ三年の思い出まで戻ってしまえばつまらぬだろうよ」

すっと立ち上がり、早速作業に取り掛かろうとするクムンに、
スカッシュが冗談めかして言う。

「無理はしちゃだめよ姉さん?」
「そっくりそのまま返してやる」

くつりと笑みを見せ、廊下に向かうクムンをスカッシュは静かに見送った。
そして、ぐっと伸びをすると勢いよく立ち上がる。

「さって、準備準備~!」

新たな"周期"が始まるまであと1日。
多くのものを共に持っていこうと、女神の誓の女性陣が走り回る。



「――火炎の竜神よ、我が問い掛けに答えよ。
 全ての自由を司る末妹神よ、我が身に空間を超えるその御力を」
「――母なる水の竜神よ、我が魔に加護を。
 全ての厄災より家族を守らんとす次女神よ、時の濁流から身を守る術を我が身に」

拠点の外。
僅かに開けたその場所で赤と青の魔方陣が大きく展開されていた。
スカッシュが翳す右手の先には赤が。クムンが翳す左手の先には青がそれぞれ。
少し離れたところで、ヤンディとケルトが待機していた。

「……ヤンディ、大丈夫か?」
「……。……? ……――何?」
「わかったよ、大丈夫じゃねぇな」

ため息をついて、もう一度魔方陣に目を向けるケルト。
ヤンディは、ケルトが何も言わなくなると再びぼうっと空虚に視線を泳がせた。
二色の魔方陣は更に輝きを増し、雪に反射し辺りは紫の光に包まれる。
クムンとスカッシュは目配せをすると詠唱を続けたまま手を繋ぐ。

「――空間を超えよ」
「――時を跨げ」

2人の足元に大きな紫色の魔方陣が展開される!
それを見計らい、ケルトがヤンディの手を引いて魔方陣の中へと踏み入れる。

「長女神よ、貴女方の子である我らに安息の空間を……」

いくつか小さな橙色の魔方陣をケルトが展開する。
途端に、どこか冷たかった紫の光が暖かなものへと変化した。

「……姉さん、もうそろそろよ」
「承知。間違っても魔方陣より出るでないぞ」
「わかってる。姫たちも無理すんなよ」

クムンとスカッシュは再び視線を交わすと、また詠唱を再開する。
周囲を覆う光が強まり、魔法が完成する直前。

「――っ……!?」
「……ヤンディ?!」

ヤンディが、その場に崩れ落ちる。
咄嗟にケルトが手を貸し、倒れてしまうという事は無かったが、
ヤンディは自分の胸元を苦しそうに握り締める。

「はっ……ぁ……! ぐ……!?」
「ちっ、姫達は絶対魔法止めるんじゃないぞ!
 ……死神め、こんな時を見計らってちょっかい出してんじゃねぇ!!」

一瞬、詠唱を止めようとした2人だがケルトの言葉で思いとどまる。
その時だ。苦悶の表情を浮かべるヤンディを薄い光が優しく包み込む。

『……全く、いちいち邪魔くさい守りじゃの』

身体の芯から凍てつきそうな声が響く。
その声に、そこにいる誰もが警戒心を顕にした。
黒く禍々しい風がヤンディを中心に巻き起こる!

『異界の守りに加え三神の守りとは分が悪いのぅ……』
「さっさと帰りやがれ死神! ヤンディは渡さねえ!!」

ぐったりとしたヤンディをしっかり抱え込みながら、
どこにいるかも解らぬ死神に向け声を張り上げるケルト。
魔力のほとんどを保護魔法に注ぎ込む。

『ふん、ここ暫くそやつに干渉するのが難しかったのじゃ。
 守りを破れないのならば、守りの内から引きずり出すまでよ!』
「――っ、ぁぐ……」
「ヤン――うあっ!!?」

瞬く間に黒い風は強さを増し、
ヤンディを包んでいた光は呑まれ、ケルトはヤンディから弾き飛ばされる!
ヤンディを黒い風が絡めとり、魔方陣の外へと引きずり出そうとする。
すぐさま体勢を整え、ヤンディへ駆け寄りながら手を伸ばす。

「ヤンディ!!」
「ケ、ル……ト……」

たすけてと声無く口を動かし、ケルトに力無く手を伸ばすヤンディ。
最早、彼から生気を感じることはできなかった。
それでも、ケルトは手を伸ばす。
しかし、その指先が触れ合う寸前にヤンディの全てが闇に呑まれた。
それと同時に死神の笑い声が響き渡り、白い光が辺りを包み込む。

「――飛び、戻れ!」「――時よ、護れ!」
『――彼のものに、聖なる護りを!!』

3人の目の前に広がるのは、ただひたすらに白い世界。
光が収まった時、拠点の前には何もなかった。
魔方陣も、闇も。
そこにあるのは、術者を無くし明かりが消えた拠点のみ。



前も後ろも、天も地も無い闇の空間。
光っているわけではないが、この空間に2つの姿が浮かび上がっていた。
一方は、両手足を闇に拘束されたヤンディ。
もう一方はそれを嘲笑う男……姿を偽った、死神。

「ふぉっふぉっふぉっ、遂に、遂にこの時が来たのぅ我が傀儡ヤンディよ」


問いかけられようとも無言。

その瞳は映すことを辞め、
               その意志は完全に奪われ、
その自我は砕かれようとし、
               その魂は歪み闇を湛える。


……そうしたのは、愉快そうな死神自身。
全ては自己満足のために、一時の至福のために。

「実に長かった。実に、実に!
 ここまで辿り着くのに何千の時を費やしたか」

手塩にかけて育てた、美味なる絶望の花は今咲き誇ろうとしている。
苗床たる魂に根を張ったそれが花開くとき、魂は二度と輪廻転生を迎えることはない。
永久に、死神の手の中でさ迷い続ける。終わることの無い絶望の世界で。

「……お前も疲れたじゃろう。
 災難であったな、紫の運命竜・紫苑に時を待たずして輪廻に戻された挙げ句
 小娘共には気付いて貰えずわしに見付かるとは。
 わしがいなくとも過酷な定めであったとはいえ流石に同情してやるとしようか」

などといいながら、ヤンディに向けるのは嘲笑い。
絶望が闇こそが全て。面白くて仕方がない。
耳元につり上げた口を寄せて、誘う。

「楽になれ。お前には希望など在りはしない。
 わしの下に堕ちろ。少なくとも、今よりはずっと楽になれるぞ」

ひとつ、またひとつと魂から残っていた僅かな光が消えて行く。
拒否権などありはしなかった。
死神が、冥界の王としての力を行使している為に、抗うこともできないのだ。
光が全て消え去ったと判断すると、左腕でヤンディの頭を抱え込む。

「安心しろ、虚ろの身体は家族とやらに返してやるからなぁ」

静かにヤンディの腹へ右手を押し当てる。
それでも尚、ヤンディの反応はない。
ただぐったりと、空虚を見つめるばかり。

「さて……その魂、わしに捧げよ!」
「――っぐ、ぁぁあぁがぁああ!!」

力強く、深く死神の腕がヤンディの腹に差し込まれる。
途端、苦痛の叫びを上げるヤンディ。
その声さえも、死神には快楽。
……刹那。

「……む? ……この感覚は。
 ちぃ、あの小僧にしてはどうにも大人しい守りと思うておったがそう言うことか!!」

勢い良くヤンディから距離を取り、右腕に燻る炎を振り払うと怨めしそうにヤンディを見る。
ヤンディの懐から赤紫の光が飛び出し、女性の姿を象る。
女性は死神に立ち塞がるように、ヤンディとの間に入る。

『……時間が掛かったけど、やっと見つけたわ。イサスベリ、この子は渡さない』
「ええい、ティーアン! 小娘まで邪魔しおってからに!!」
『神格を持つ存在を止められるのは、神格を持つ存在かそれに近しいものだけでしょう。
 この子と契約を交わしたのは貴方だけでないのよ』
「ふん、知っておるわ。良かろう、今回は諦めてやろう。
 小娘が来たと言うことは、わしの詰めが甘かったと言うことじゃ。
 未だそやつに希望が残っているとはおもわなんだ」
『……貴方にしてはあっさり引くのね?』
「このわしが素直に引くと思うたか?」
『……まさかっ』

ばっと振り返りヤンディに駆け寄ろうとする女性だが、見えぬ壁に阻まれる。
良く見れば、半透明の卵型のドームがヤンディを包み込んでいた。
卵の中に溢れるのは暖かな聖なる光。

『異界の、守護』
「もう、わしもお前でさえも干渉を受け付けんだろうよ」
『……守護の中に貴方の力を感じるのは何故?』
「只では帰さぬ。わしは希望が、光が気に食わん。
 ……奴のそれを拡散させ奪わせてもろうたよ。もう二度と希望は抱かせん。
 ふむ……興醒めじゃな。この空間はお前にくれてやる、好きにせい」
『あっ、ちょっと!』

闇に溶け、死神は姿を消す。
ひとつ溜め息をついて、女性はもう一度卵の中を覗き込む。
闇の拘束から解放されたヤンディは、そこで静かに寝息を立てていた。
何も知らぬ子供のように、安心しきった様子で。

『……異界の王の、3つの守りよ。感謝いたします。
 我が子を守って下さったこの恩は、忘れません。
 どうか、この子がもう一度世界を真っ直ぐ見られるようになるまで災厄から御守り下さい。
 ――願わくは、もう一度希望を取り戻せるまで』

優しく、慈しむように結界を撫でる女性。
その表情は、正に幼子を見守る母親そのもの。

『ゆっくりおやすみなさい私の愛しい子よ。
 今は、この暖かなゆりかごの中で……
 "ディフリーヤ"、貴方に希望の花が咲き乱れることを祈ってるわ。
 貴方に光が、希望が有る限りあたしが助けにくるから』

闇の空間が、光で満ちてゆく。
女性の姿は光に紛れて見えなくなった。
やがて、辺りが見えないほどの光が収まるとそこはヴァルトリエにある拠点の一室。
聖印を握りしめて深い安らかな眠りについているヤンディしか、そこにはいなかった。



景色が目の前に戻った。
間違いなくここは、ヴァルトリエ北部に存在する女神の誓の拠点だと、"3人"は確信する。

「……成功したか」
「……変人は置いてきちゃったけどね」

2人揃って、その場に座り込む。
肩で息をしている2人を見れば、相当な負担であったことが窺い知れた。

「ヤンディ!! ヤンディ!? 居ねえのか?! 返事しろ!!」

"前の周期"で、魔方陣から引きずり出された挙げ句、闇に飲まれたヤンディの名前を叫ぶ。
しかし、返事が返ってくることはない。叫びは雪に吸収されてしまった。

「……ボス、あれ変人じゃない?」

スカッシュが示したのは、拠点の玄関。
見慣れた藍白の髪が僅かな隙間から覗いていた。
すぐに玄関は閉まり、変わらぬ静寂が辺りを包む。
ケルトは一先ず胸を撫で下ろし、玄関に向かって走る。

「姫たちはちょっと待ってろ、あいつ引っ張ってくるから!」

置いていかれた2人は少し顔を見合わせ苦笑を浮かべて、
お互いに手を貸しあいながらゆっくりと立ち上がる。
ふと、スカッシュの耳に小さくも聞きなれた音が入った。
それは、"彼"お得意の……

「ケルト下がって!!」
「へ?」
「ばか、上見なさいよっ!!!」
「……っ!?」

ケルトの頭上に降り注ぐのは、無数の針。
慌てて後ろに飛びのけば、今までいた場所にそれが突き刺さる。
もしも当たっていたならば……と、冷や汗がケルトの頬を伝った。

「……なんつーか、凄く覚えがあるぞ。この歓迎方法」
「……奇遇ね、あたしもよ。嫌な予感しかしないわ」
「話が全くもって見えないのだが」
「あー……姉さんあの頃寝込んでたから知らなくてもしょうがないわ」
「けど、なんでこんなの仕掛けてんだあいつ……」

細心の注意を払い、玄関を開けてケルトを先頭にゆっくりと進む。
内装は少し散らかってはいるものの、"前の周期"からは全く変わっていなかった。
違うのは、いくつものランプが壁に掛かっている事くらい。

「……ヤンディの奴、どこ行った?」
「部屋じゃない?」
「あ、こらもっと下がっててくれよ。対処できねぇから」
「はいはい」

女性陣が距離を取った事を確認して、前を向いた途端首に突きつけられる短剣。
ケルトに、感情のかけらも感じられない冷たい視線が突き刺さる。

「……おいおい、俺らだってばヤンディ」
「……どこの誰だぃ」

元より細い目が更に鋭くなる。
それは知人に向けるような警戒心ではなく、殺意をも含んだモノ。
久々に聞いた、意味を持つ言葉は忘却を口にした。
そして、この目をケルトは知っていた。
遠い昔、決別を誓ったあの頃と全く同じ目。

「……俺がケルトだって言ったら信じるか」
「信じない。……似てるけど、あいつは歳相応の見た目してない。
 ……ああ、わかったよ。君たち、ケルトに言われてわざわざ探しに来たんだね。
 絶対に戻らないぞ。追い出したのは紛れも無くあいつだ」
「……お前の中で、俺は16か。一番、辛い時期に戻っちまったな」
「君が何言ってるかさっぱりだけど、死んでもらうよ。
 ……早くここを離れないとねぇ、増援が来たら面倒だ」

問答無用で短剣が振るわれるが、あまりに大振りな動きだった為に簡単に避けてみせる。
流れるような動きでヤンディの短剣を持つ腕を掴み、
これ以上の攻撃が繰り出せないよう押さえつける。

「ヤンディ、お前、今いくつだ? 答えたくなかったら俺(ケルト)の歳でもいい」
「……13。それが、どうかしたかぃ?」

短剣を奪い取って、床に投げ捨てる。
力一杯にヤンディを引き寄せ、強く抱きしめた。
抱きしめられた途端、ヤンディは目を大きく見開き硬直する。

「……お前がこれ駄目なのは知ってる。悪いなヤンディ。
 けど、今はおやすみ。後で文句だろうがなんだろうが、全部受け止めてやるから」
「……ぁ、う……」

不意をついた催眠魔法がヤンディの意識を奪い去った。
力を失った身体を支えて、小さく呟く。

「……死神の野郎返すもんは返したくせに、なんつーもんを持っていきやがった」
「……ねぇ、ボス。結局、どうしたの変人」
「俺が、こいつを追い出した直後から今までの記憶を全部持っていかれちまった。
 こいつにとって……一番苦しい時期まで巻き戻っちまったんだよ。
 旅で手に入れた未来を、希望を、光を……全部死神に奪われた」
「つまるところ、記憶喪失と言うわけか。
 ……まずいな。ケルト、お主の事はともかく
 ……我とスカッシュの事は簡単には認識できぬと思うぞ」
「だろうな、こいつの中じゃ姫達は12と8の子供だ。なかなか結び付けられないだろうよ。
 ……けど、とりあえず話は明日だ。姫達も寝てくれ、細々としたことは俺がやっておく」

背負っていた剣を下ろし、ヤンディをゆっくりと背負う。
そして、部屋まで運ぼうと廊下に出た。
クムンとスカッシュもそれに続き、各々の部屋で休息をとった。



「……つまり、君たちはケルトとおちびとおちびのお姉ちゃんで、
 おいらは13じゃなくてもう25で、異世界で同じ時間をもう2回繰り返してるって?
 しかも今は3回目?」
「そうそう!やぁっとわかってくれたのね!」
「全然わかんない」
「えー……」

助けを求めるように、残りの2人を見るスカッシュだが、
ケルトは微妙な笑みを、クムンはため息だけを返す。
当のヤンディは、変わらず感情の無い無表情のまま紅茶を口にした。

その様子を見て、ここまでくるのにも苦労したものだとケルトは思う。
あれから、何も食べようとも飲もうともしない日々が続いていた。
どうやら、雪を大量に部屋に持ち込んで溶かし沸騰させたものを飲んでいたらしい。
何を持っていっても口にしようとはせず、廊下にばら蒔いていた。
……簡単な話、ヤンディは毒を警戒していたのだ。

ヴァルトリエで自然の木の実や魚を期待するのは難しい。
それ故に、雪だけで飢えを凌いでいた。
結局、果物をスカッシュが目の前でかじって見せてやっと食べ物を受け取るようになった。
まだ、同じものをヤンディの食器を使って食べて見せなければ手を付けようともしないが。

「大体、おちびはおちびだからおちびなのに君はおちびじゃない」
「何言ってるかあたしにはさっぱりよ変人」
「そもそも、おちびってこんなうるさくない」
「うぐ……反論できないわ……小さいときは引っ込み思案だったし」

食事を一緒にとるようになってからもずっとこんな感じだ。
いくら説明しても信じようとしない。
どうしても、ヤンディの中のイメージと今のケルト達が一致しないのである。

「ケルトはこんな兄ちゃんじゃなくて、もっと小さいしうるさいし」
「中身までガキでいられるかよ。何年たったと思ってやがる」
「おちびのお姉ちゃんとはそもそもまともに話したこと無いし」
「うむ……あの頃はずっと床に臥せていたからな」

茶菓子をひとつ、正面にいたスカッシュの皿からつまみ上げ、
自分の口の中に放り込むヤンディ。
一瞬抗議しようとしたスカッシュだが思いとどまった。
……また、何も食べなくなってしまっては困ると。

「……それで君たちはおいらに何を求めてるわけ?
 出てけってわけでもない、働けってわけでもない。じゃあなにさ?」
「俺らと一緒に居てくれればそれでいい。
 そんで俺らの世界に帰ろう、お前を待ってる子もいる」
「へー、その子変わってるね」
「この世界にはお前の親友もいるぞ」
「……親友なんていらない」
「そう言うなって。いい奴だぜ?」
「"もう"いらないって言ってるだろぅ!?」

テーブルを叩き、勢いよく立ち上がる。
3人の顔を見渡して、小さく呟く。

「……とりあえず、君達の事は信じてやる。
 よくわかんないけど部隊長とかいうのもやる。
 ……けど、それだけだよ。他を信じる気は無いし何かあればすぐに出ていく。いいよね」
「あ、いや部隊長は俺が――」

話を聞かずに、ヤンディは廊下に続く扉に消えた。
深いため息をついて、ケルトは言葉の続きを紡ぐ。

「……俺がやるってのに」
「あの調子じゃ絶対譲らないわよ変人」
「今まで通りとは行かぬだろうが……変わらず接すべきだろう。
 あやつは人の気に敏感である故、気を使えば逆に離れよる」
「ま、唯一の希望は時々ふっと思い出してくれることよねー。
 多分このままのペースなら2、3ヶ月ってとこかしら」

そう、全く思い出す気配が無いわけではなかった。
死神に持っていかれたのか、世界の干渉に巻き込まれたのか、正確な事は誰にもわからない。
それでも時折、話の流れに自然と乗ってくることがある。
13歳のヤンディなら知り得ない話を、虫食いではあるが確かにしてくる。
会話を重ねれば重ねるほど、失われた記憶は戻っていた。

「……けど、肝心な"今"は全く埋まってない。
 あの子のアクセサリーを見ても無反応だし、"親友"ってワードもNGだ」
「これは誰かを拠点に入れるのもアウトよねーきっと」
「極力、来客はヤンディに会わせぬ方が良かろうな。
 無いとは思いたいが、武器を向けかねん。」

2人もそれに同意する。
やっと慣れてきているとはいえ、それはあくまでも自分達限定だとわかっているから。

「……じゃ、ボス。明日から始まる"3回目"の戦乱に備えて気合い入れてちょうだい」
「うむ、此度もまた生き延びようぞ。強者の織り成す黄金の遊戯から」
「よっしゃ、1人足りねえが仕方ねえ。任せな」

席を立って、胸の聖印に軽く触れる。
中央にあしらわれた宝石から放たれた青くも優しい光が辺りを照らす。

「――我が主、長女神よ。我が願いを聞き入れたまえ。
 我らが望むは平穏の日々。平和と呼ぶに相応しき安息の日々。
 それらを勝ち取らんとす我らにその祝福を」

聖印を自らの額にかざし、祈りの体勢に入るクムン。
中央の宝石からは緑色の光が零れる。

「――我が主、次女神よ。
 戦乱に身を投げうる我らにその守護を。
 家族を守りえるその御力を。
 戦乙女とも呼ばれる貴女様の、勝利の確約を」

スカッシュが首から下げた聖印の宝石が、赤紫の光を放つ。

「えーっと……忘れちゃったなぁ……
 ――ティーアン様ティーアン様、あたしたちの自由が奪われませんように!
 ええとあとは、あたしたちを見捨てないでください。
 ティーアン様のご加護で、敵に向かう全ての運もあたしたちに!」

スカッシュの砕けすぎた祈りの言葉にクムンは眉をしかめ、ケルトは苦笑を浮かべる。
まぁいつもの事だと気を取り直し、ケルトが祝詞を紡ぐ。

「――我らに三女神の加護あれ。
 平和への道筋を我らに再び示したまえ!」

一瞬、3つの宝石の光が増して、徐々に収まっていった。
完全に光が消えたところでケルトが手を叩く。

「ほらほら、お祈りは終わりだ。
 全員就寝!明日からまた忙しくなるぜ!!」
「えーっ、スカッシュちゃんまだ眠くないー」
「寝るぞ」
「えー……姉さんまでぇ」

ぶーたれるスカッシュを廊下まで押しやって、自分も部屋に向かうケルト。
残されたクムンもティーセットを片付けて、自室に戻る。

明日から始まる、戦の日々に備えて思い思いに休息をとった。
3度目となるこの戦、苦戦を強いられるのか激闘となるのか。
その結末は、神ですら知りえることはない。
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