英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。
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「開けるぜ?」
「おーけー」
ケルトが見つけ出した小さな遺跡。
初めて自力で見つけたのだから大人の力を借りずに攻略したい。
だけど自分だけじゃ心細いからついてこい、とはケルトの言。
大して危険な罠がなかった事もあって、父さんにも言わず2人で探検に来た。
事前予測をした通り、規模が小さかった為にすぐ最深部まで到達することができた。
「……大したもんねぇな」
「そりゃあ、こんだけ呆気ない場所にお宝があってたまるかぃ」
こじんまりとした部屋の中央に安置された短剣の他にお宝らしきものは無かった。
安置された短剣ですら、特別装飾されているわけでも金でできているわけでもない。
見た目は完全に盗賊団員がよく使うような地味なダガーというか、ナイフというか。
「他に何かねぇかなぁ」
「おいらは無いと思うよ」
ケルトは短剣を無視して部屋の探索を始めた。
手伝えと声がかかるが、何故だか短剣から目が離せない。
刃と柄に彫られた些細な装飾が、どうしても引っ掛かる。
――そう、どこかで見た。
だがどこで見たかが思い出せない。
けれど、何かが警笛を鳴らす。
早くここから出ろ、短剣には絶対触れるなと。
「……もう、帰らないかい」
「はぁ?まだ何かあるかも知れねぇじゃねぇか」
「何も取らないで戻ろう、嫌な予感がするんだよぅ」
ここまで来ておいて何をと返され、それでもしつこく帰還を催促する。
ここに長く居てはいけない。根拠は無くとも確信はあった。
このまま留まれば、ろくでもない事になると。
「ケルト」
「だーもう、わかったよ。帰れば良いんだろ帰れば!!」
その言葉にホッとしたのも束の間、次の言葉に焦りを覚えた。
「けど、何も取らないのは無しだ。こいつがあればきっと親父びっくりするぜ!」
「ダメだ、それに触るなっ!!」
叫んだが、遅かった。
ケルトがその短剣に触れた途端、禍々しい闇の魔力が溢れ出す。
背の扉は勝手に閉じ、目に見えるほどの濃すぎる魔力がケルトを包んでいく。
魔力の霧に晒され、ケルトはその場に蹲った。
「それ捨てろ!!」
「から、だ……うごか、ね……」
側にいるだけで背筋が凍る。
恐怖に慣れている筈の自分が、余波を受けただけで動けない。
元から望みを持っていない自分を、絶望の奥底に引きずり込んだ。
――どちらの耐性もなく、魔力の真っ只中にいるあいつは、一体どうなる?
死の影が見えた。
それは、今まで自分にしか落ちることのないと思っていたのに。
色濃いそれが、ケルトに差している。
身体が勝手に動いていた。
ケルトから短剣を奪い取り、できる限り離れた位置に移動する。
魔力の霧はケルトから離れ、こちらを覆った。
視界は黒いそれに遮られ、全身から力が抜けて壁に背を預け座り込む。
やがて、霧が黒いローブを来た男に変化した。
自分を見て微かに驚愕し、ケルトを見てため息をついてから口を開く。
「――小娘め、隠しておったか。それにしても魂の因果とは恐ろしいものよのぅ」
ケルトに歩み寄ろうとした男のローブの端を、床を這って力を振り絞り思い切り掴む。
こいつをケルトに近づけてはいけない、本能がそれを告げていた。
意識を失っているあいつを救えるのは自分しか、いない。
「……さすが、意識を失わんとは大したものじゃ」
「ケル、トに……手、だすな……」
「短剣はお前に返ったか……
まぁよい、先に喰ろうてやろう。騎士の始末はあとでも良いからな」
男は大鎌を召喚し、黒い霧を纏わせる。
あまりに濃い、死の香りが身を震わせた。
鎌が振り上げられ、訪れるであろう死の衝撃を目を閉じて待つ。
やっと、やっとこの生き地獄から解放されるのだと。
――しかし、衝撃の代わりに金属音が響き渡った。
「……俺の、弟に何しやがる!!」
「ちぃ、剣まで既に手にしておったか」
目を開ければ、自分よりも大きな剣で降り下ろされた大鎌を受けているケルトがいた。
その剣は確か、倉庫で埃を被っていたものをケルトが貰ったもの。
重すぎて持てないからと、収納アイテムに仕舞い込んでいたはず。
――けれど、こうして見る限り軽々と扱っているように見える。
「抜かったのぅ、よもや邪魔されるとは思わなんだ。……時間切れじゃ、幸運じゃったの」
男の姿が霧となって薄れていく。
そんな男に、ケルトが叫ぶ。
「てめぇ何者だ!!」
「死の神にして冥界の王、イサスベリじゃ。わしの短剣はそっちの小僧を選びよった。
覚悟せいよ咎人。わしはお前を手に入れ、騎士と寵愛の娘を消滅させねば気が済まん」
そう言い残して、男は消え去る。
それと同時に扉が破られて、数人の男達が慌しく駆け込んできた。
「坊ちゃん無事か!?」
「――ミナト」
そう呟くとケルトは安心したような笑みを浮かべて、その場に倒れこむ。
それをミナトが支え、剣と一緒に抱え込んだ。他の男達もケルトを心配して取り囲む。
動かない身体に鞭を打って、壁に縋って気が付かれないように部屋を1人で出た。
――いつだって、そうだ。心配してもらえるのはケルトだけ。
こっちはむしろ、何故生き残ったのかと問い詰められる。
そう考えれば小さく自嘲の笑みが浮かんでしまう。
きっと今回も、あとで倉庫に呼び出されるだろう。
……ケルトを殺 そうとしただのなんだのと、難癖付けられるに違いない。
身体を引きずって歩きながら、持ってきてしまった短剣を眺める。
何故だかは知らないが、短剣の持つ意味を理解できてしまった。
自分はこの先、“悪魔の子”ではなく“死神憑き”として生きていかなくてはならないことも。
ぼうっと、天井を眺めた。
「……なんで今、夢で見たんだろ」
死神との初対面、そして環境の悪化。
あの時はどうしようもなかった。あれが最善だったと思うしかない。
「――あいつは今、おいらに手が出せない。なら、次にあいつが狙うとしたら」
“騎士と寵愛の娘を消滅させる”
過去を思い出していて、引っかかった言葉。
寵愛の娘が誰なのかは知らない。けれど、騎士は確実にケルトだ。
“デイシア神の騎士”それこそがあいつの真名が持つ意なのだから。
「……ああ、だからか」
最近ケルトの様子がおかしいのは、これか。
自分が熱でぶっ倒れたあの日、きっと何か吹き込まれたに違いない。
なら、また助けてやろう。
短剣が欲しかったから奪ったと主張したあのころと同じく、自分勝手な理由で。
「悪役は、おいらだけでいいのさ」
山積みの問題を、1つ1つ。確実に片付けていこう。
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1994/05/10