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英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。

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【視点:ケルト】

――急にヤンディが高熱を出して倒れた。
今、こいつが死神に狙われ苦しんでいるのは俺のせい。
昔の、ガキの頃の俺がもう少しあいつの話を聞き入れていたならば……
意味の無い後悔。そんな時、死神が囁いた。

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「……」

じっと、眠るヤンディに視線を落とす。
気付いていない訳ではない。
こいつが、俺に降る火の粉を代わりに被っていることを。

異様に高い危機察知能力をガキの頃から発揮していた。
何で避けないのか、何でやり返さないのかと子供の頃に問い詰めた記憶がある。
その答えをこいつの口から聞くことはなかったが、今ならば予想がつく。
そう言う意味でも、昔から賢い奴だったのだ。

……賢く、危機察知能力に秀でいたからからこそ、こいつは死神に見つかってしまった。
それは、愚かな俺を死神から救おうとしたが為に。


「こうしておれば可愛げもあるというのにのぅ」


ここにあってはいけない声を聞き、勢い良く顔を上げる。
そこに立っていたのは、黒いローブの若い男。
一瞬のうちに魔力を織り上げ、警戒心を高めて男を睨み付けてやった。


「お前もそうは思わんか?」
「何しに来やがった」
「寝顔を見に来たのじゃよ、わしの子じゃ何もおかしくは無かろう」
「ヤンディはティーアン神の子だ。てめーの子じゃねぇ」
「相変わらずデイシアに似て冷たくも熱い魂じゃのぅ……」


ヤンディに触れようとした死神に、剣を抜いて突き付ける。
何かあってはいけないと、持ってきていて正解だった。
自分ごときが勝てる相手ではない。
そんなことは嫌と言うほど解っているが、それでもこいつにだけは触れさせはしない。

――例えこの命、死の王に奪われようともこいつを護れるならば。
どうせあの時救われた命だ、こいつの為ならば散らそうとも構わない。


「――冥界の王に剣を向ける魂はいつの時代も貴様だけじゃ」
「だからあの日俺を呼んだわけか」
「力を付ける前に屠ろうと思うておったが、どうにも遅かったようじゃな」
「はっ、あの日俺からこいつにターゲットを移したのが失敗だったな?」
「移した覚えはないぞ。
 貴様の為に用意したその短剣を、ヤンディが自ら望んで横取りしたに過ぎん」

……思い出すのは、あの日。

あの日、俺があの遺跡さえ見つけていなければ。
あの日、見つけた遺跡のことを親父に報告していれば。
あの日、ヤンディを誘って遺跡に潜らなければ。

あの時、意地でも短剣を手放さなければ。

……少なくともあいつは少しでもマシな人生を送れたに違いない。
代わりに俺はここにいないだろうが、俺が所有者として認められていれば
あの短剣は向こう百年、現世に姿を現すことなどなかっただろうに。


「あの時の貴様等は実に愉快じゃったのぅ」
「……思い出話がしたいだけなら帰ってくれ」
「しかしヤンディは幼いころより賢い男じゃった」
「黙れ」
「短剣の秘めたる力を即座に見極め、触れずに帰ろうした事には感服したものじゃ。
 もっとも、本能的に察知しただけやも知れぬがな」
「……」


ぎり、と歯を噛む。こいつの言葉は、正しい。
あの時、俺がヤンディの言葉さえ聞き入れていれば。
素直に、意地など張らず、弟の警告さえ受け入れていれば。

ヤンディが死神に見つかって纏わり憑かれることはなかったのだ。
こいつと死神の接点を作ってしまったのは、紛れもなく俺。
悪魔の子と罵られていたこいつを、死神憑きにしてしまったのは俺だ。


「ふぉっふぉっ……良い顔をしよる。
 わしが現世を手に入れた暁には、お前も眷属として側に置いてやろうか」
「断る、ヤンディ共々お前の下に堕ちる気はねぇ」
「ふん、既に我が手中に在りじゃ。Dの奴が紫苑に堪えられなくなれば再び我が側近じゃて」
「さっきも言ったが俺等は女神の子だ。ヤンディはお前の所有物じゃねぇ」


剣を突き付けられても尚動じないのは神故の余裕なのだろうか。
にたりと歪められたその表情が、あまりにも不快。


「そうじゃ、デイシアの騎士よ。貴様はDの事をどれだけ知っておる?」
「……」


一体何を言い出すのだこいつは。
Dはヤンディが呼んだ“精霊”。それ以外の答えはない。


「どうせひたすらに隠しておろうが……奴こそ大罪人、原罪者。
 わしと共に女神に刃を向けた人間じゃ」
「な……っ!?」


動揺から、剣先がぶれる。

何故原罪者が存在する?
人間が精霊になるには、神の力が必須だというのに。
けれど、あいつの魔は間違いなく女神に連なるもの。
――何故、女神はあいつを拾い上げた?


「――んなの、信じるかよ」


口ではそう言えど、断片的な情報が全て繋がっていく。
あいつが原罪者だと言うのなら、全員の真名を握っていても不思議はない。
真名を見抜く力は、聖書にも記されている。
真名を奪われ、自我を奪われ、自分の意思と関係無くDの下で戦った人間もいたという。

――もし、もしもヤンディがDを大丈夫だと言うのが真名を握られているからだとすれば?
原罪者は死神に属する人間だ。
未だそちらに属している可能性は高い。

それならば、姫の反応も納得が行く。
最初から姫だけはDを疑うことすらしなかった。
あの頃から真名を使われた魔法を行使されていたならば、おかしな事ではない。
……そうでなければ、あの信心深く聖邪に敏感な彼女が、あいつを信用するわけがない。


「信じるか信じまいかはお前次第じゃ……さて、暇するかの」


くつりと笑って消え行く死神に向かって、できるだけ抑えた声で問いかける。


「てめぇは、一体何がしてぇんだ」
「わしは、ヤンディと現世が欲しいだけじゃ」


死神が完全に姿を消したあとも、剣を下ろす事ができなかった。
暫く経った後、やっと剣を収めてその場にへたりこむ。


――まずい。誰も、何も信用できねぇ。
そう、自分の思考、感情すらも、何もかも。
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