英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。
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窓から屋根へ出ようとして、先客に気が付く。
危うく見落とすかとも思ったが、そこには確かにDがいた。
だが、その姿は辛うじて目視できる程度にまで透けていた。
それは、そう。
妖精が力を使い果たして自然に還る時のようで。
仰向けで星を眺めている彼が、今にも消えてしまいそうだった。
「……D、お主」
「やぁアリス。ついにバレちゃったね」
「半年ほど、理由をつけて夜に姿を消していたのはこの為か?」
「うん、太陽と魔法の光は誤魔化せても月の光は専門外だから。
マスターに知られて、動揺させたくなかったのさ」
なんてことの無いように、いつもと同じ調子で言う。
それはなんだか、いつかの日を思い出させる。
あの日も今日と同じ満月で、隣にいた彼はそれからどんどん体調が悪化していった。
「動揺はあるやもしれんが、安定しておろう?」
「これがまた危ない橋渡ってるんだよ……竜の力を仲介するのが中々難しくてね。
マスターは安定してるって思ってるみたいだけど」
「……そのままだと」
「何も手を打たないならボクは消えてマスターもかなり不安定になるね。
ボクだけが消えるなら別にいいんだ、希望が空席になるけどまたすぐに埋まるだろうし。
聖霊の身である以上覚悟はしてた。竜の力を制御するのは最初から無謀だったしね」
Dはおもむろに手を翳し、その先にある月を眺めた。
「でも、このままじゃみんな死んでしまう」
「――みんな?」
こいつは、一体何を言っているのだろう。
まだヤンディの名を出すならば理解できよう。
けれど“みんな”とは一体どういうことか。
「そう、みんな。
ボクが消滅して、マスターが冥界の王の手に完全に堕ちてしまったら王の勝ち。
5000年以上続いてきた神々の賭けの決着が付いてしまう。
――だからボクは、最後まで抗う。あいつに、渡したりしたくない。」
「賭け、とは」
「……おっと、話しすぎちゃったな」
一瞬、Dの姿が消えた。
目を見開いて視線を送れば、今まで微かに纏っていた柔らかい雰囲気が消え去る。
その表情は真剣そのもので、いつもの彼からは想像ができない強い覚悟を感じ取れた。
「これ以上聞かないでね、必要以上に話すと消滅が早まっちゃうから。
人間が知ってはいけないことを知ってしまった、大罪人の枷は重いんだ」
「……」
「ねぇアリス」
「うん?」
「ボクは、マスターと契約を切る」
「そんなことをすれば!!」
今、ヤンディを支えているのは紛れも無くDだ。
そのDがヤンディから離れてしまったら。
「ボクはこのままじゃ、この世界に存在していられない」
「だが、ヤンディはどうなる!?」
「……シエナに任せた。彼女なら何とかあの指輪の魔力に耐えられるから」
指輪といわれてDの手を見れば、いつも嵌められているものはそこに無かった。
「だから君には、眼を貸してあげる」
「眼?」
「希望と絶望を見極める、希望神の眼を。
いいかいアリス、王が狙うのはマスターやケイルだけじゃない。
賢い君なら、きちんと使いこなせることを祈っているよ」
「……ケルトには、何を?」
「彼には、王と渡り合える力を。今のボクに残った魔力を全て」
だからね、とDは言う。
「今ボクには“何の力も無い”
人間としての力を“ケルト”に貸し与え、灰神としての神器の片割れを“スカッシュ”に貸し与え
――そして“クムン”に眼を貸せば、ボクの神としての力は失われる。
なんの力も持たない、ただの聖霊。聖霊は、消え行く定め」
「ヤンディには、説明したのか」
「……しばらく神界に帰るとは言ったけどね。
大丈夫、彼が腕輪を外さない限りはしばらく何とかなるよ」
ゆっくりと起き上がり、向き合う。
「しばらく、の後は?」
「――そうなる前に、帰ってくるから。
さあ、目を閉じて。君に渡す力は、制限こそあれどボクの力そのものだ。
王をその眼に捉え、希望を導いて退けるんだ。
ただまぁ、この力だけじゃ撃退はできないんだけどね」
目を閉じる前に見えたのは、小さな笑みを浮かべたD。
けれどその視線は非常に真剣なもので、
圧倒されてしまうのは普段は感じられないこの神々しさのせいなのだろうか。
視界を塞いだとたん、多くのモノが視えた。
輝かしい光と、暗い闇。
それが複雑に絡み、辺りに広がる。
示す先に視えるのは、希望と絶望の営み。
未来への、道しるべ。
そっと目を開けたとき、そこにDはいなかった。
呆然としていれば、すぐ近くに3つの希望をこの眼が捉えた。
1つは力強く、1つは輝き、1つは闇の中に光っている。
「……確かに、借り受けた」
慣れるまでには時間が掛かりそうだったが。
これで家族の助けになるのならば。
闇渦巻く中から、希望を引っ張り出して見せよう。
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女性
誕生日:
1994/05/10