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英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。

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【視点:ケルト】

愛剣が抜けなくなり、代用の剣をヤンディから受け取って振るい続けていた。
けれど、それは俺を認めてはくれなかったようだ。
もう1つの、隠した時間の巻き戻りの話。

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紫と灰の莫大な魔力に黄金が混じり、景色が移り変わる。
自分達人間の力では到底扱いきれない、
あまりに膨大な魔力をたった1人で扱っているのを見ると、
ああやっぱりこいつは人間で無いのだと実感する。
昔はヤンディの後ろにいる死神だけが非常識な存在だったというのに。
……いい加減、自分の常識で物事を計るのをやめろと言うことか。

「みんな、魔力に当てられたりしてない?」
「平気平気、大丈夫よ!」
「ケイル、君は?」
「問題ねぇよ」

以前ならば、
姫とスカッシュちゃんの2人がかりでも魔力が足りるか足りないかというレベルだった。
それをDは軽々と苦労無くやってのけた。
少しは疲れているかと思えば、いつも通りどこかふわふわとして掴み所がない。

「シエナとアリスが拠点に張ってくれた分もちゃんと動いてると思うけど……
 それぞれ確認しておいてね」
「おーけー。ま、大丈夫だろうとは思うけど」

それぞれが拠点に戻るのを眺めて、踵を返す。
時間が戻った。それはつまり身体の感覚が鈍くなったと言うこと。
少しでも動かして、勘を取り戻しておきたかった。
前から決めていたことを、納得させるために。

「……ケルト、どこ行く気だい」
「ちょっとばかし素振りにな。すぐ戻る」

ため息を背に受けて、山の奥へ入っていく。
獣道を進んでいけば、しばらくして少し開けた場所に出た。

剣を抜いて、数度宙を切る。
時折浮かぶ雑念をも切り捨て、ただひたすらに。


―― 俺は、何もできない人間だ。


Dは例外にしても、姫のような知識も無ければ、
スカッシュちゃんのような機敏さを持ち合わせている訳でも
ヤンディのように生きていく手段を持っているわけでもない。

今できる事は、ただひたすら剣を振るって守る事だけ。
……現状は、それすらも危ういが。

ここしばらく、ヤンディに命を救われた回数は数えきれない。
ひとを超える神の力という物の恐ろしさは身に染みてわかった。
今は、守られる側にいることがとても悔しくて。
けれどそうは言っても、あの常闇から逃げるだけの力を自分は……持っていない。

「―― いづ……っ!?」

突如刺すような痛みが両手首を襲い、剣を落とす。
あまりの激痛に蹲り、押さえつけた。
口から、噛み殺し切れなかった悲鳴が零れる。
手首が引きちぎられたのではと錯覚するほどの痛み。

数分、いや数秒かもしれないが、鋭い痛みが続いてやがて薄れた。
あまりの苦痛で意識を朦朧とさせながらも、両手首を確認する。
特に傷は見受けられなかったが、
代わりに先程までは無かった筈の痣のようなものが浮かび上がっていた。
緑とも紫とも言える不気味な色をしたそれは、よく見れば茨が巻き付いたような模様で。

―― その意味にはすぐ行き着いた。

「―― 飲まれ、る」

やはり、自分には無理だったのだ。
神器を扱うなんて、茨の名を冠する守護の剣を振るうなんて、身の程知らずだった。
故に、茨の乙女の怒りに触れてしまった。
これは神罰。自分ごときが聖人の剣に触れてしまったがための。

『……別に怒ってはいないのだけれど』
「!?」

勢い良く顔を上げる。
そこに居たのは、白い衣を纏った美しい女性。
衣に這う茨が、彼女をこの剣の真の主であることを示していた。

『迷いました。貴方を我が君と認めるか。
 ……貴方は我が君と同じ魂を持っている。その意志も、覚悟も尊き母上のそれに沿うもの』

だけれど、と茨の乙女は言う。

『茨の六乙女は、ただひとりの騎士に永久の忠誠を誓い有事の際は剣を差し出すことが務め。
 他のものには屈せず、母上と我が君の敵にこの剣と茨を向けねばなりません』
「……俺は、敵ですか?」
『……今の貴方に剣を預ける事はできない。ですから、印を刻ませていただきました』

ふと手首に視線を落とせば、そこには本物の茨。

『茨が貴方を抱くまで猶予を差し上げます。
 それが全身に回るか、もしくはこれか我が君のもの以外の剣を振るった時は
 闇に染まりつつあるその魂封じましょう。
 貴方が闇に堕ちてしまう前に、かつての誓いに従って貴方を茨に閉じ込めましょう。
 ……最善を尽くしなさい、ケルシュタード』
「―― お待ち、くだ……」

空気に溶けるように、乙女の居なくなった空に視線をさ迷わせる。

―― 一体どういうことだ。
話の、その意味を考えるだけの思考力は残っていなかった。

未だ、鈍い痛みの残る手首を見下ろせば、そこにはもう茨は無かった。
けれど、茨の模様は確かにそこで異様な存在感を放っていて。



―― ひたすらに恐ろしかった。

理解できたのは、このままでは自分は茨に飲まれてしまうという事実だけ。
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