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英雄クロニクル/サクセス鯖 女神の誓(1uxv)の主にSS置き場。

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【視点:スカッシュ → 視点:ヤンディ】

なんであの人は、あの人は彼を嫌うの?
貴方はよく知っているでしょうに。
貴方だって彼の財産を食べていたでしょうに。
なのに、どうして殺そうとするの。

――いつの日か、またこの地へ戻ってこれることを願う。
だから置いていこう。
冥界の探検家は、帝国にだけいればいい。

※カササギ診療所さん(1kaj)のカササギさんをお借りしております。

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帝都の外れ……スラム街まで来て苦しげな彼を介抱する。
帝都病院は嫌だ、宿も嫌だと聞かなかった。
結果的に、衛生状態もいいとは言えないこの場所で休息を取っている。

先ほど子供たちが変人に気がついて騒ぎ立てていたが、
他人のそら似だと言って気だるそうに追い返していた。
遠巻きに注がれる視線が気にならない訳ではないが、
今の彼にはきっと毒だからどうにかもっと人気の無い場所に移動させたい。
けれど……


「――」
「……変人、やっぱり帝都病院行こうよ」
「やだ……心配した奴が、来ちゃうだろ……」
「でも、あたしじゃ治せないし……」
「2、3日寝てれば治るよ。
 ――昨日から煩いくらい死神に文句言われてるし、あいつが飽きなきゃすぐ治る……」
「……」

この人に動く気はないらしい。
いつも探検用に持ち歩いている屋根だけの簡易テントの下で、本当に治るまで寝てる気だ。
――そんな、簡単に治るような傷じゃないのに。


「ミナトの雷って、怖いじゃないのよ」
「――」


ごろん、と背を向けられた。
その拍子に額に当てていたタオルが落ちる。
小さくため息を吐いて、それを拾った。


「……水、汲んでくる」


返事は無い。
何度目かも分からないため息を吐いて振り返れば
ゆっくりと女性が歩いてくることに気がついた。


「――子供たちに、ヤンディ様にそっくりな方がいらっしゃると聞きまして」
「えっと……?」
「あら、申し遅れました。カササギと申します」


洗練された動作で礼をするカササギに慌てて頭を下げた。
そこで思い出したのは、この人は確かなお医者様だということ。


「あ、あの!!」
「――元より、診察のつもりで参りました。ご体調が優れなさそうだと聞いたもので」


無駄の無い動きで変人に向かっていくカササギ。
そっと傍に座って、声を掛けた。


「ヤンディ様ならば、帝都の病院に行けるでしょうに」
「……他人の空似」
「そうですか、ならばお名前をお聞きしても?」
「――」
「……お名前が無くとも構いませんよ。
 私を頼ってくださる患者様は、皆等しく患者様ですから」
「……ごめん、ありがとう」
「いいえ」


素人目に見ても、的確に手当てが施されていく。
あたしは精々水で冷やしてあげることしかできなかった。


「――動けますか? 診療所に行きましょう、ここでは応急手当しかできませんよ」
「あ、あたしが連れて行くわ」
「はい、お願いいたしますね」


簡易テントを手早く片付け、スラム街を更に進んでいく。
カササギの案内に従って歩いていれば、
なんとなくなぜ彼が彼女のいるこのスラム街へ来たかが分かった。

――彼は、きっと信じていた。
一晩あそこで乗り切りさえすれば、彼女が話を聞きつけて来てくれるのではないかと。



あれから数日。
変人は絶対安静だと言われて布団の上で休んでいる。
誰にもあたし達がここにいると言わないで欲しいと頼み、
しかも治療してもらってるのだからとその代金を支払おうとしたのだが、断られてしまった。
彼女曰く、あの方はヤンディ様ではないでしょう?とのこと。
傷付いてスラムに来たのならば、皆等しく私の患者様なのだ……と。


「変人、具合はどう?」
「変わらないかな……」


外傷はない。
それがあの人の暗殺術。
けれど代わりに肉体を内側から焼いてしまう恐ろしい魔法。
カササギセンセは最善を尽くしてくれている。
……けれど、それでも一向に回復の兆しが見えないのは
それだけあの人の魔法が凄まじかったということ。


「……ねぇおちび」
「なぁに?」
「カササギには頼んだんだけど、
 巻き戻りまでに動けるようになったらイズレーンに行かないかい」
「――国境を越える、の?」
「うん……だから悪いんだけど」
「分かった、全部処理してくるわ」


多くの言葉はいらない。
どうせ巻き戻っても部隊に戻らない以上は色々と改竄しておかなければならなかった。


「書類上からあたしたちを抹消してくる」
「……うん、気を付けて」
「えぇ」


ともすれば、傭兵組合だけでなくクラニオの研究室にも潜り込まなければ。
もし研究資料が次の時間に引き継がれているとしたら、
そこからあたしの名前を消さなければいけない。
……共同研究者というのも結構面倒だ。



――そう、結構……というか、もうかなり面倒くさい。
傭兵組合の書類改竄は終わった。
ボスを部隊長に据えて、姉さんとの2人構成へと変えた。
ミナトの写真は持っていなかったからどうしようもなかったが、
保護魔法も掛けてきたので巻き戻りの時に改竄までリセットされることは無いだろう。

問題は、こいつだ。


「おやぁ? これは珍しい顔ですねぇ?」
「あら、あたしだって研究者ですもの。何もおかしくはありませんことよ」


こいつ。
まぁ五分五分で居るだろうとは践んでいたが、それでもなんてタイミングの悪い。


「んふふ、ヤンディ将軍はお元気ですかなぁ?」
「えぇ、“部隊長は”元気にしておりますわ」


流石にここへ変装して入る勇気は無い。
それにスカッシュという仮面が一番怪しまれずにすむ。
そうでなければ、共同研究者の名を手にいれた意味が無いのだし。


「それは何より。少し出てきますので研究室は自由に使っていただいて構いませんよぉ」
「ええ、お借りいたします」


なにやら機嫌の良い長官を見送って、共同研究資料を引っ張り出す。
正直なところ魔導科学の事は良くわからないのだが、
ようは魔法だろうと応用をきかせたら案外上手く行ったのだ。
過去に科学を齧っていたのが功を奏したのだろうか。
――まぁ、今はそんなことはどうでもいい。

手に取った研究資料の山を誰にも気付かれぬように魔法で収納した。
それから、同じだけの資料を魔法で創り、すり替える。
長くは持たないだろうが、それでも発覚を遅らせることはできるだろう。
巻き戻りの直前まで時間が稼げれば十分だ。


「早く帰りましょ――?」


ふと目に入ったのは、クラニオの研究物が入った倉庫。
確かあそこには、国家機密レベルのものが保管されているのだとか自慢された気がする。
――そう、それは例えば……黒水晶。


「……」


かのルシフェリア殿下は、黒水晶を煎じて飲んだら不老になったと聞いた。
かの公園の妖精は、黒水晶の力を使って巻き戻りを回避した。
ナイトガルム卿や、エリュシオン陛下でさえもこの力を扱っている。

思考を過ぎったのは、あれがあれば変人を治療して上げられるのではないかという思い。
本人には伝えていないがカササギ先生曰く、
また自力で歩けるようになるまで回復するかも怪しいとのこと。
Dもまた傷の度合いを見るや神界から治療するからと言って姿を消した。
……あれならば、きっと治せる。

――彼の望みはできるだけ叶えたい。
あいつと同じ国にすら居たくないと思うその意思を尊重したい。
でも、あのセキュリティーを突破できるだけの腕が果たして自分にはあるだろうか?


「――やるしかない」


今作りえる最高難度の結界を生み出し、セキュリティーの突破を試みる。
かつて積み上げた全ての技術を駆使して、知識を引っ張り出して。
警報を発動させないよう、細心の注意を払って中へ進入した。

そうして、奥に進むにつれて強大な力が流れてきているのが感じられた。
まるで肌が焼けているかのようにピリピリと、痛い。
久々に感じる痛みだ、膨大な力を身に纏う時に感じるモノ。

やがて目の前に現れた大きな黒い水晶に手をかざし、微かに魔法で砕いて懐に隠し持つ。
隠し持ったその欠片でさえもとても強い力を秘めている。
力を封じられたあたしでも、それくらいは理解できた。

そして、もうひとつ理解できたことは。


「――“空間を越えよ、空の下へ”」


小さく唱えた途端、懐かしい感覚に包まれて気がつけばそこは研究所の外。
……これが身近にあれば、魔法もほぼ元のように使えるらしい。
さすが、“黒の鍵”。
欠片でさえこの力、本当に変人を救うことができるかもしれない。
そう思えばもうじっとはしていられなかった。

力強く地面を蹴り、診療所を目指す。
早く、早く治してあげたい。
これを直接使うことで弊害が起きるなら、あたしが間に入る。
ネックレスにでもして、ある程度力を制御できるようにしてしまえばいい。

――待ってて。



風に吹かれて粉雪が舞う。
帝国の3月はまだまだ寒い。
思っていたよりもずっと早く治癒した事で、国境を越える準備は着々と進んでいた。


「ヤンディ様、お身体に障りますよ」
「うん、今戻る」


とはいえ、完全でないのも確か。
今はまだ、怪我人扱いされても仕方がない。

病院も宿もすぐあいつに突き止められると判断し、彼女をあてにしてスラムまで来た。
彼女の診療所の事を帝都で口にする人は本当に少ない。
それは彼女が医師として未熟だからではなく、むしろ長けているからこそ。
戦場でも散々世話になっているが、まぁつまるところ彼女は帝国ではもぐりなのだ。


「……それにしても、スカッシュ様のおかげで随分と回復が早くなりましたね。
 あれも、ヤンディ様方の世界の魔法ですか?」
「――ううん、あれはこの国の力だよ。いったいどうやって手に入れてきたのやら」

――黒水晶。
その欠片をクラニオの研究室から調達してきたらしい。
その、ほんの一欠片を髪飾りに加工して魔力の制限を擬似的に取っ払ったとか。

彼女自身は回復魔法を扱うことができないが、その力に反応した神が2柱。
これは使えるとばかりに、黒水晶を媒体にして治癒のスピードを早めたのだ。
おかげで、こうして動けるまでには回復した。


「――カササギ、いつここをたつ?」
「そうですね……数日以内には」
「案内は頼んで良いんだよね?」
「ええ、“次の時間”にヤンディ様がいらしてくだされば心強いですしね」
「まぁ、食い扶持は確保しないといけないしねぇ」


亡命を決めたのは随分前だ。
ミナトと同じ部隊に……同じ国にいるだけできっとあいつは自分を狙ってくる。

昔から、悪魔の子やら死神を背負う奴に生きる資格は無いという考えの男だ。
竜こそ至上、女神は我等が母、魔法は我等の誉。
……典型的な、次女神の信徒だと言えばそれまでだがそれでも過激な男。
自分に味方する人間の、その殆どをあいつの策で失った。


「しかし、本当によろしいのですか?」


部隊の皆様やテンコ様にお伝えにならなくて。
そう続けられた言葉に、思わず目を伏せ、それからできうる限りの笑みを浮かべて見せる。


「――良いんだ」


部隊に連絡は絶対に入れられない。
そして、彼の家族を守るためにもテンコに連絡を入れる訳にはいかなかった。
……彼自身は生きていなくとも、彼の家族は生きている。
ケルトとの付き合いも厚い以上、早々手出しはしないだろうが万一があり得るのだ。
相手は親父さんと言う騎手を失った、暴れ馬だから。


「あそこに、おいらは居ない方がいい。
 例えどんなに混乱を招いてもさ、この国には居ない方がいいよ」
「……本当にそうでしょうか?」
「――うん」


静かに、踵を返す彼女の背を見つめる。
降り積もる粉雪を眺めて、小さく息を吐いてみた。
空気を白くするそれが、妙に寂しげに見えて。


「……私はヤンディ様の御事情を存じ上げませんから、こう言って良いのかも分かりませんが」


耳だけを、少し離れた彼女に向ける。


「私が、皆様の立場ならば何が出来なくとも知らせてほしいと、そう思いますけれどね」
「――耳が痛いよ」


伝えれば、きっとついてくると言い出すだろう。
巻き込まれたのではない、自分で決めたのだと言ってくれるだろうが
それでも彼をわざわざ危険に晒す真似はしたくない。
ならばおちびはどうなのかと言われそうではあるが、あの子は逆に連れて行かなければ危ない。
……ケルトと一緒にいる限りは大丈夫だろうが、それでも性格を考えれば万一がある。


「……出発は明後日にいたしましょうか。あまり長居はされたくないのでしょう?」
「うん……悪いね」
「いいえ。早めにお休みなさいませね」
「そうするよ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」


カササギを見送って、もう一度空を見上げた。
不意に蘇ったのは、遥か昔。
まだ駆け出しで、無名の探検家だった頃。
あの人の訃報を耳に挟んだのも、丁度こんな天気だったか。


「――懐かしいな」


ずっと、忘れていた。
元の世界にいた頃は、毎年命日にあの人の為の宝を探して納めていたというのに。
この世界で生きることがあまりに楽しくて、忘れていた。


「……」


まぁあの日々は毎日が危険と隣りあわせでとても苦しかったが、
それでもまぁ他に比べればマシだったか。
恨めしく思うと同時に、感謝もしている。
あの地獄の日々を抜け出して、今という日があるのは間違いなくあの人のおかげ。


「――“冥界の探検家”は帝国だけにいればいい」


居場所を残しておきたい。
例え記録や名声は引き継がれなくとも、ここで築いた絆は確かに残ると信じたい。
いつの日かここに戻ってこられるように。



「――おちび」
「ええ、巻き戻ったみたいね」
「タイミングは丁度良かったようですね」


国境を越え、森の中を進んでゆく。
カササギの案内のおかげで迷うことなく安全な道を選択することができたのだ。


「皇都までご案内しましょうか?」
「……いいや、これ以上は迷惑もかけられないし何とかするよ。
 まだこの国で傭兵登録もしてないし、記憶持ちと出くわしたら厄介だろう?」
「――わかりました、道中お気をつけて」
「ああ、そっちも。戦場ではよろしくね」


軽く会釈をして、カササギはその場から姿を消した。
幾度も見た彼女のスタイルだが、相変わらず凄いなと思う。
話によれば、今回の戦では見直すとこぼしていたが。


「あたし達も行きましょ。まずは皇都よね?」
「ああ、傭兵登録を早く済まそう。記憶持ちと出くわさないのを祈ってね」
「難しいと思うわそれ」


小さく笑いをこぼし、北を振り返る。
これからは帝国と刃を交わさなければならない。
――当然、北に残る家族や親友とも。


「……霧弓」
「は?」
「霧弓の銀剣矢。ここではそう通そう。探険家であることに変わりは無いけど、そうしたい」
「霧弓って……魔法使いを買って、遺跡に放り込んでたっていうあの非情貴族の?」
「そ、あの変人じじい。とっくの昔に死んだけどねぇ……いろいろあってお得意様だったのさ」


銀剣。
それが自分のあそこでの名だった。
死神をも恐れず、むしろいるなら目の前に現れて呪いの品を寄こせという奇人。
霧弓の矢として他の矢が次々と折れていく中、絶対に折れない矢として使われていた。


「――また、1から頑張ろうって思っただけのことだよ」
「ふぅん……?」


納得のいかない様子のおちびを置いて、東へ歩みを進める。
慌ててついて来るのを横目で見て小さく笑みがこぼれた。


「さ、新天地でまずは3年。頑張ってみようじゃないか」
「ポジティブねぇ」
「そうじゃなきゃやってられないよ」


……戦友が殆どいないであろうこの周期。
かつての戦友と戦わなければならないことも多いだろう。

黄金の遊戯は6回目。
異国の地で、最善を尽くす他ないのだ。
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